理事長挨拶

 

特定非営利活動法人 富士森林施業技術研究所 理事長 河原輝彦                                           

  2005年2月16日、京都議定書が7年の歳月を経て発効しました。我が国は、二酸化炭素排出量の6%削減を世界に約束し、そのうち3.9%を森林による吸収で賄うという計画を打ち出しました。さらに、森林整備を行うことにより初めて炭素固定量が計上されることになるマラケッシュ合意のもとでは、人工林への手入れ、森林の整備が条件となりました。これは、林業界にとって追い風となるはずですが、林業を取り巻く情勢はなお一層厳しいものとなっており、外材よりも安価であるにも関わらず国産材の需要は少なく、木材自給率は20%と非常に低い状況です。このことは、業界に伐り控えの傾向を生み、我が国の蓄積量は確実に増加しています。そして今、このような針葉樹の一斉林が成熟期を迎え、今後どのように管理して行くかが問われております。     

 このように、国土の1/4以上を人工林化させ、その蓄積量を増加させ続ける森林大国日本が、人工林の保育・整備を見捨て、環境提供能力の低い森林に変えてしまっては、森林という植物集団を基盤とする我が国の自然環境に重大な危機を与えることとなります。そこで、木材生産機能と環境保全機能という、これまで対立関係とされてきたこの図式を払拭し、二つの機能を兼ね備えた森林造成を可能とする多様な施業技術の開発が求められているのです。生態系管理やモントリオールプロセスなどをはじめとした新たな森林管理の概念は、持続的な森林資源の利用はもとより、森林の生態系としての機能や構造を損なわないことに重点を置いています。すなわち、これからの森林施業は森林生態系のしくみを最大限に活用し、木材生産機能と環境保全機能を共生させることのできる森林施業を展開していかなければなりません。よって、そのようなことから現在、複層林施業、針広混交林施業、長伐期林施業などの研究が鋭意進められています。このような施業による森林造成は、その造成過程での省力化や地力維持・環境保全等の公益的機能にも期待できることから持続的に木材生産が可能となるので、これからの人工林の管理手段の1つとして有効であると考えられています。   

 しかしながら、これらの施業についてはまだ解決すべき問題点も多く、多様な機能を発揮させる森林管理の計画に生物多様性保全を含めるための解析的方法の欠如や、木材生産における経済性と種多様性・構造的多様性との関係についての研究も乏しく、さらに従来の管理の結果として生物多様性が維持されていたかどうかの評価だけではなく、生物多様性保全を含めた多様な機能を発揮する森林管理手法を用いた結果、どのような成果が得られるかの評価が今後重要となります。    

 このような問題を解決するためには、生態学者と森林管理者の間の密接な協力関係が必要であり、森林管理への新しいパラダイムの導入、比較生態的な研究を通じて森林生態学への新しい洞察、人工林生態系のより客観的な解析と生態系機能の理解を進めることが重要です。よって、このような新たなアプローチを可能とする、生態学者と森林管理者の二つの視点を合わせ持つ組織が必要であると考え、富士森林施業技術研究所を発足しました。微力ながら、日本林業界のために様々な研究や活動を行っていきたいと考えております。皆様のご支援、ご協力をよろしくお願いします。

略歴:1940年京都府生まれ。京都大学大学院農学研究科修了。農林水産省森林総合研究所を経て、東京農業大学教授(2000年4月より2007年3月まで)、現在に至る。研究分野は、森林生態学、造林学。著書に「多様な森林の育成と管理」など。

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